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名古屋地方裁判所 平成10年(ワ)2173号 判決

原告

水谷春雄

被告

猪飼健二

主文

一  被告は、原告に対し、三七八九万五五六六円及びこれに対する平成七年五月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分しその七を被告の、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、五二三一万八二〇〇円及びこれに対する平成七年五月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が左記一1の交通事故の発生を理由に被告に対し自賠法三条・民法七〇九条により損害賠償請求をする事案である。

一  争いのない事実

1  交通事故

(一) 日時 平成七年五月三日午後四時四〇分ころ

(二) 場所 三重県桑名市大字太夫一九一番地の一先路上

(三) 加害車両 被告運転の普通乗用自動車

(四) 被害車両 原告運転の原動機付自転車

(五) 事故態様 原告が被害車両を運転して東西に走る市道桑名中央線(以下「本件道路」という。)に北側歩道部分から進入し、南側に横断するために南西方向に斜めに進行途中、本件事故現場で同一方向に進行中の加害車両に衝突された。

(六) 傷害 原告は、本件事故によって、頸椎損傷・左肋骨骨折・左下腿骨折等の傷害を負い、脊髄損傷による両上肢麻痺、左下肢短縮、骨盤骨変形の後遺障害を残し(平成八年七月三〇日症状固定)、自算会から併合四級の後遺障害等級の認定を受けた。

2  責任原因

被告は、加害車両を自己のために運行の用に供する者であるとともに、指定速度遵守及び前方注視の各注意義務に違反した過失がある。

二  争点

被告は、本件事故による損害額を争うほか、原告にも路外から公道に進入するに際しての注意義務違反があるとして大幅な過失相殺をすべきと主張しているが、原告は、自己に一割を超える過失はないと主張する。

第三争点に対する判断

(成立に争いのない書証、弁論の全趣旨により成立を認める書証については、その旨記載することを省略する。)

一  損害額

1  治療費等(請求額零円) 二七二万七九六〇円

乙第二ないし第四号証、弁論の全趣旨によれば、本件事故に基づく原告の治療費(自己負担分)、XP複写代、義肢装具費用の合計は二七二万七九六〇円であることが認められるから、これを本件事故と相当因果関係に立つ損害として認める。

2  入通院付添看護費(請求額二〇一万六〇〇〇円) 一八二万三〇〇〇円

乙第二号証、原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故による傷害の治療のために二六六日間入院し、その間、妻あるいは親族が付添看護をしたこと、原告の傷害の程度や入院中の状況に照らしその全期間につき付き添いの必要があったことが認められる。そこで、一日当たり五五〇〇円、合計一四六万三〇〇〇円を入院付添費用として本件事故と相当因果関係に立つ損害と認める。

また、乙第二号証、原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨により認められる原告の傷害の程度や年齢に照らし、以後の通院一二〇日につき、一日当たり三〇〇〇円、合計三六万円を通院付添費用として本件事故と相当因果関係に立つ損害と認める。

3  入院雑費(請求額三七万二四〇〇円)二六万六〇〇〇円

右に認定の入院期間に照らし、入院雑費として一日当たり一〇〇〇円、合計二六万六〇〇〇円を本件事故と相当因果関係に立つ損害と認める。

4  通院交通費(請求額一四万〇四〇〇円) 一四万〇四〇〇円

右2に認定の通院日数一八〇日につき、弁論の全趣旨によれば一日当たりの交通費は七八〇円であると認められるから、合計一四万〇四〇〇円を本件事故と相当因果関係に立つ損害と認める。

5  休業損害(請求額五九四万四二五二円) 五九七万〇四一一円

甲第一一号証、原告本人尋問の結果によると、原告は、本件事故前、不動産業を営む有限会社水谷の営業として平成六年に年額四八〇万円の収入を得ていたこと、本件事故(平成七年五月三日)から症状固定(平成八年七月三〇日)までの四五四日間稼働することができず収入を得られなかったものと認められるから五九七万〇四一一円を本件事故と相当因果関係に立つ休業損害と認めるのが相当である。

4,800,000÷365×454=5,970,410.9

6  後遺障害による逸失利益(請求額二五九三万九五四八円) 二五九四万〇九〇九円

前掲のとおり、原告に本件事故に基づく傷害により併合四級の後遺障害が残ったことは当事者間に争いがない。そこで、症状固定後の逸失利益は、労働能力喪失率を九二パーセント、稼働可能年数七年に対応する新ホフマン係数を五・八七四三とすると、二五九四万〇九〇九円を後遺障害による逸失利益として本件事故と相当因果関係に立つ損害と認めるのが相当である。

4,800,000×5.8743×92%=25,940,908.8

7  慰謝料(請求額一八五〇万円) 一八三九万円

原告の症状固定日までの入通院の状況及び後遺障害の状況に照らすと、入通院慰謝料として二八九万円、後遺障害慰謝料として一五五〇万円を本件事故と相当因果関係に立つ損害と認めるのが相当である。

8  自宅改造費(請求額七九万五〇〇〇円) 二〇万円

甲第一二号証の一、二、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故後、自宅の改造として掘りごたつを設置し、風呂・便所・廊下に手すりを付け、便器を和式から洋式に取り替えると共に温水洗浄機付きの便器として合計七九万五〇〇〇円を支払ったが、このうち原告の障害の程度に照らして必要性の認められるのは、手すり工事及び便所の和式から洋式への取り替えの範囲に限られる。そこで、自宅改造費として二〇万円の範囲で本件事故と相当因果関係に立つ損害と認めるのが相当である。

9  備品等(請求額一〇五万四七四〇円) 三五〇〇円

このほか、原告は、二四時間風呂設置費(三〇万九〇〇〇円)、車椅子(一〇万九〇〇〇円)、座椅子・セミダブルベツド(六万三八〇〇円)、健康温熱式マット(一七万八五〇〇円)、掘こたつ用布団(七万三五〇〇円)、オステオトロンⅡ標準セット(健康器具。二五万九五六〇円)、同備品(四万八〇〇〇円)、アルミ製杖(三五〇〇円)、カルシウム剤等(九八八〇円)を損害として主張するが、このうちアルミ製杖(甲第一九号証)を除き、いずれも原告の傷害の治療あるいは後遺障害を補填するために不可欠なものとは認められない

10  小計 五五四六万二一八〇円

二  過失相殺

1  甲第二号証の一ないし五、同号証の八、原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、原告は、路外北側から公道に入るに当たって、本件道路の東方向の遠方に加害車両が進行してくるのを認めたものの、これが近づく前に横断できるものと即断して進入を開始し、西行車線に入って一〇メートルほど走行したところで後ろから追いついた加害車両に衝突されたものであり、他方、被告は、本件道路の速度制限が四〇キロメートル毎時であるところ、約七五キロメートル毎時で走行し、かつ、路外から東行車線に原告が入ってきたことに気づきながら、脇見運転をして前方を全く見ていなかったために、自己の前方に入ってきた原告の発見が遅れて衝突したものであることが認められる。

2  これらの事実に照らすと、本件事故は基本的には路外から進入して来た原告が走行中の被告の進路を妨げたのであるから原告の過失の方が大であるが、原告はほぼ既右折の状態にあったこと、被告はスピードオーバー及び脇見運転の過失も大であることに照らし、原告の過失三割に対して、被告の過失七割と見るのが相当である。

3  したがって、前記損害合計から原告の過失割合を控除すると、被告の賠償すべき損害額は三八八二万三五二六円となる。

三  損害の填補

乙第二ないし第五号証、弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故による治療費等合計二七二万七九六〇円(国保からの求償により国保に対して支払われた治療費の金額を被告の損害から控除して被告の負担に帰せしめることは相当ではない。)の支払を受けたから、これを右の損害額から控除すると、残額は三六〇九万五五六六円となる。

四  弁護士費用(請求三〇〇万円)

右に認定の損害額及び弁論の全趣旨に照らし、本件事故と相当因果関係に立つ弁護士費用は一八〇万円が相当と認められる。

五  結論

したがって、原告の請求は、三七八九万五五六六円及びこれに対する本件事故の日である平成七年五月三日から支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める範囲で理由がある。

(裁判官 堀内照美)

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